父の中に私はいない

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小学生1年くらいのころのある年の大晦日の出来事が、父の私への関わりを印象強く示している。

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子供のやる気と幸福感を奪う

専業主婦の妻がいる典型的な昭和の父親らしく普段は一切家事をしなかった父だが、これも古き昭和の風景なのか、年末には腕まくりで大掃除をしっかりとする人だった。
電気の傘や額縁などの高いところの掃除、納戸の整理、家中の窓の内側と外側の拭き掃除、網戸をすべて外してデッキブラシで洗い、家の外壁も脚立に上ってブラシで洗ったり、女性には少し危険でトリッキーな部分を毎年てきぱきとこなす立派な父親。

私も幼いころは喜々として大掃除のお手伝いをしていたよい子。
もちろん主に簡単なところだが、その年たまたま我が家は直前に『タイルの汚れがみるみる落ちる』系のブラシを入手しており、私はそれを使ってみたくて自らお風呂掃除を始めた。

私が生まれた年に建った我が家の当時のお風呂は、浴槽以外の床も壁もすべてタイルだった。
無精な母親のおかげで壁のタイルの目地には積年の汚れとカビが付着し、黒ずんでいるところがたくさんあったが、そのブラシでこすると黒い汁がダラダラ流れ出して魔法のように白くなった。
もともと一人遊びや大人の仕事や家事をまねるのが大好きだった私は楽しくなって、一人夢中で黙々と掃除を楽しんでいた。

そこへ父親がやってきた。
父「なにしてんねや?大丈夫か?できるか?」(やさしい)
私「お父さんみて!すごいねん!きれいにとれる!」
父「お父さんがやったろか?」(やさしい)
私「いい、私がやる!」
父「ちょっと貸してみ、高いところはお父さんがやるさかい・・・」(え!)
と私からブラシを取り上げ、私が届かない上のほうをゴシゴシこすりだした。

父「ほんまや、ようとれるなあ・・(ゴシゴシ)」
私「お父さん、下のほうは私がやるからやらんといてな!ブラシかえして」
父「ちょっと待たんかいな・・(ゴシゴシ)」
私「お父さんもうかわってよ、ブラシかえして!」
父「・・・・(下のほうまでゴシゴシ)」
と、私を無視して父が無言でタイル磨きにハマりだしてしまった。

幼いころから姉の嫌がらせで邪魔され続けていた私にとって、一人で平和に遊ぶ時間を奪われることは最大級に嫌なことだった。

私は「うわーん!!」と泣きながら、台所でおせちの準備をしている母親のところへ訴えにいった。
私「お父さんがお風呂の掃除かわってくれへん!ブラシかえしてくれへん!チビちゃんがやってたのに!チビちゃんがやりたいのにーーーうわーーーん!泣」
母「お父さん、ちょっと何してんの、子供がせっかくお手伝いしてるのに取り上げたらあかんやないの」
そう言われても父は「ちゃうがな・・」とブツブツいいながらしばらく手を止めず、ようやくしぶしぶお風呂場から出て「ホレ」とブラシを返したときにはもうほとんど真っ黒の汚れは残っていなかった。なんと絶望的な光景。
「子供が機嫌よく手伝ってんのん邪魔して、やらんようになったらどうすんの~」と母に言われ、父は去っていった。

愛情が非常に薄かったということ

その後どうしたのかは覚えていないけど、この事件は50代になってもまだ悲しい思い出として心に傷が残っている。
40年以上も暗く息苦しい体験として覚えているのは、単に「お掃除ができなくて悲しかった」からではないはずだ。
父親の中の自分の存在の小ささや、自分への興味や愛情のなさを感じ取ったんだろう。
トラウマになるほどの事件だったのだ。

父は私など眼中になかったのだろう、一人の人格としても見ていなかったのだろう。
子供の喜びを奪い、泣きわめくのを横目にタイルの掃除を楽しんでしまったのだ。
大人になってからの私は父親のことをそんな風に考えたことなかったけど、子供ってそういうセンサーがすごいんだろうな。親の愛情は命にかかわる。

それと単純にありえるのは「寂しさ」。
親に自分の姿、いいところも悪いところも、特に頑張ったところをしっかりと見て評価してもらえないというのは子供にとっては生きる意味を失う。
あんなによい子にお手伝いしたのに、褒められるどころか自分の存在を無視された子供。
孤独だったに違いない。今すぐに行って思い切り褒めてあげたいよ!

私が7歳なら、父は44歳だ。
一番落ち着いていて冴えてる年頃で子育ても3人目「親として若すぎた」というようなハンディはないはず。
デリカシーがなかったり単純な人だったけど、いつも笑っていて愛情深い良い父親だとずっと思っていたが、このエピソードを思い出せばそうではなかったと。
「愛情深い」は私がそう思いたかっただけかもしれない。


この子煩悩になれない父の性質は、父の壮絶な生い立ちが関係しているかもしれない。
また機会があれば書こうと思う。

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